蛇行

「人生山あり谷あり」とはよく言ったもの。僕の人生もご多分に漏れずこういったバイオリズムの連鎖の中で日々過ぎている。皆さんはどうでしょうか?
 TVのワイドショーを見ていてもそうだ。この間までトップを走っていたタレントがちょっとした問題で干され、逆にいったん売れなくなった歌手が企画モノのCDで復活ののろしを上げている。彼らや僕らのなかで最後に山に登り、成功を勝ち取れるのは誰なのでしょう?
 そんなことを考えているとき、ある人の言葉を思い出してアルバムを引っ張り出し一枚の写真を見つけた。昔オーストラリアのブリスベンに留学したときのものだ。それはホストマザーのメアリーと一緒にクーサ山展望台で撮ったもの。
 メアリーは何でもあけすけにものを言うオージー版肝っ玉母さん。100キロはあろうかという巨漢で、いつもダイエット中と言いながらLサイズのピザとかをほおばっていた。渡航したばかりの僕は現地の生活になれず、2週間くらい塞ぎ込んでいた。そんなときよく車で連れて行かれたのがクーサ山なのである。
 展望台に登るとブリスベン一体の大パノラマが眺望できる。それを目の当たりに口を開けている僕にメアリーは普段よりゆっくりな英語で、身振り手振りを交えてひとつのことを伝え始めた。それは別名スネークリバーと呼ばれるブリスベン川について。眼下に見えるその川は、まさに大地をのたうつ蛇のごとくくっきりと街を横切っていた。そして川はあまりの曲折のため、場所によっては所々が切れて孤立した三日月池のようにも見えた。「人生はこの川と同じよ。良いこと、悪いこと、色々あって繋がっていく。もう先がないと思っても、角度変えればつながって見えるよ」。正確には解らないがそんなことを言っていたように思う。
 写真の中のブリスベン川はあいも変わらず蛇行していた。そして展望台の手すりに寄りかかり、川をバックに笑う僕とメアリーの後ろには、かすかながらブリスベン湾も映っていた。「川は海へ出るのよ」。
 ひとつの写真が、小さい日本でホンの小さな山の頂を目指す心を諌めてくれた。それから思い直した。最後に辿り着くのは、山じゃなく限りない海の方がいいなあと。